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小説の書き方講座⑩「文体とは何か」パート3

いやはや、すっかりご無沙汰です。ついサボりぎみになってしまうのですが……。さて、半年ぶりに小説の書き方講座の10回目、「文体とは何か」のパート3です。

昨年2015年は、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんと作家・羽田圭介さんが芥川賞を受賞し、久しぶりに文学の話題が世を席巻しました。しかし、年が明けると、しっかりリセットされているような印象を受けてはいます。世の中の気分も落ち着いてきましたので、改めて、又吉さんの「火花」と羽田さんの「スクラップ・アンド・ビルド」の文体をテーマに、少し触れてみます。

■「火花」は読みにくい小説なのか?

普段小説を読まない人でさえ、「火花」を読んだそうで、いろいろと感想を聞く機会がありました。電車でも「文藝春秋」を読んでいる人がいたりと、当時はとても驚いたものです。さて、その感想はというと、案外、年輩の方が「読みにくい」と言っていました(特に冒頭のようです)。若い方ならまだしも、年輩の方でさえ、そう思うのかと、結構意外でした。

結論からいえば、「火花」は読みにくい小説かというと、そうでもないと思います。では、なんでそう感じさせるのか。それは文体でしょう。おそらく、普段小説を読まない方は、「なんでわざわざあんな表現をするのか」と思ったことでしょう。簡単にいえば、それが又吉さんの文体ということです。又吉さんはあえてああいう書き方をし、あるいは、ああいう書き方しかできなかったのだと思います。ですから、読む側はそれを受け入れるか、突き放すか、どちらかしかありません。反対にいえば、100人がいて100人がわかりやすい、と感じる文体は癖のないもので、心には何の感動ももたらさないでしょう。

■処女作を超えられるかどうか

では、一方で、羽田さんの小説はどうだったのか。おそらく、多くの人が、羽田さんの方が読みやすかったとは思うでしょう。ただ、それが作品の良しあしと関係あるかというと、話は別だと思います。つまり、羽田さんも、羽田さんの文体により、「スクラップ・アンド・ビルド」を書いた、ということです。

ただ、個人的な印象をいえば、多くの作家が、案外、処女作の文体が最もいい、という傾向にあります。きれいに研磨されていない椅子に座っているような感覚。世にいう新人作家の処女作には、そういう不快感さえあります。しかし、それは小説として成功していれば、許容できる、むしろ、癖になってしまうものです。ところが、デビューから回数を重ねるうちに、どんどんその刺々しさや不快感がなくなっていく。確かに小説はうまくなっているし、表現も洗練されている。でも、何だか処女作のような勢いや力を感じない……。そういう経験があります。そんなとき、「ああ、あのとき自分はあの文体に惹かれていたのか」と、気づかされるものです。

そろそろ結論を。文体というのは、先の回でも触れたように、半ば体質。その体質が変われば、文体も変わる。そういうことなんだと思います。小説を書く上で、体質を変えるか変えないか、それはある意味で、自己の生き方と表裏一体の問題なのかもしれません。